■【Racの視点】「見て覚えろ」が組織を殺す――AI時代にこそ問われる「現場職」の誇りと教育

「今の若い奴は、教えてもらわないと何もできない」 現場を回っていると、そんな嘆きを耳にすることが多々ある。かつて、厳しい修行時代を「見て盗む」ことで乗り越えた諸先輩方のスタンスは、日本の現場を支えてきた強さの源泉であった。

しかし、今、私たちは歴史的な転換点に立っている。 ホワイトカラーの仕事が次々とAIに代替され、労働力はやがて「物理的な現場」へと流れ込む。その時、現場が「他に行く場所がないから、消去法で選ぶ場所」であってはならない。

1. 「放任」という名の思考停止を疑う

現場に潜入して私が目にするのは、「教えてもらえないうえに、厳しく言われる」という環境に立ち尽くす新人の姿。自衛隊での28年間、私は「教育」がいかに組織の生死を分けるかを叩き込まれた。

放任して育つ人材が集まれば、確かに指導者は楽である。しかし、それは組織としての成長を「個人の運」に委ねているに過ぎない。人材不足が深刻化する今、必要なのは「指導すべき者が、指導の仕方を学ぶ」という、一見すると「甘い」と言われるかもしれない変革である。

2. 指導の「使い分け」というプロの技術

「甘やかす」ことと「育てる」ことは異にする。 今の指導者に求められているのは、高度な使い分けである。

  • 自発的に学び取る者には、その背中を見せ、加速させる。
  • 立ち止まっている者には、適切なステップと「言語化された技術」を授ける。

指導者は技術を極めるだけでなく、組織の未来を創る「後継者育成」という能力を蓄えなければならない。これを「個人の裁量」ではなく、組織の「仕組み」として定着させることが、変革の第一歩である。

3. 「360度評価」が暴き出す、組織の真実

育成指導者の能力を誰が客観的に評価するのか。その答えは、最も身近にいる「被育成者(後輩・新人)」の声にある。

賛否が分かれる「360度評価」であるが、新人の声は嘘をつかない。どこに課題があるのか、なぜ人が定着しないのか。冷静に分析すれば、答えは自ずと明らかになる。「若造に何がわかる」と突っぱねるのではなく、その声を「組織の弱点を知るためのインテリジェンス」として受け入れる度量こそが、今、求められている。

4. 消去法ではなく「誇り」で選ばれる現場へ

今後、AIに居場所を追われた人々がブルーカラーの世界に流れ込むことが予想される。しかし、勘違いしてはならない。それが「ブルーカラーが好んで選ばれる時代」の到来を意味するわけではない。

「それしか選べなかったから」ではなく、「自らその道を選び、誇り高く働きたい」。そう思える自発的な世界に変えるために、私たちはこの育成課題から目を逸らしてはならない。さもなければ、現場はますます敬遠され、枯渇していく。

業界全体のイメージを覆すのは、派手な広告ではなく、内部の「育成能力」と、それを正当に評価する「制度」であり、 今こそ、変革の時かもしれない。いかに早く着手するか、改革に覚悟を持つかが問われている。

株式会社Rac solution 代表取締役 髙田 隆